「遺言なんてまだ早い」——そう思っているうちに、残された家族がもめる。遺言書には主に二つの形があり、どちらを選ぶかで“確実さ”と“手間・費用”が大きく変わる。怖がらせるためでなく、賢く備えるための地図を。
結論(早見)
ざっくり言えば、確実性・もめ防止・財産が大きい→公正証書遺言。手軽さ・費用を抑えたい・内容が単純→自筆証書遺言+法務局の保管制度。最大の分かれ目は「無効になりにくさ」と「家庭裁判所の検認が要るか」。自筆でも、2020年7月開始の法務局の保管制度を使えば検認が不要になり、紛失・改ざんも防げる。
| 項目 | 自筆証書(+法務局保管) | 公正証書 |
|---|---|---|
| 作る人 | 本人が全文を自書(財産目録はPC可・各頁に署名押印) | 公証人が作成(本人は口述) |
| 費用 | 保管申請3,900円(保管制度利用時) | 財産額に応じ数万円〜(公証人手数料令で法定) |
| 証人 | 不要 | 証人2人が必要 |
| 家裁の検認 | 保管制度を使えば不要/使わなければ必要 | 不要 |
| 無効リスク | 形式不備で無効になりやすい | 専門家関与で低い |
| 紛失・改ざん | 保管制度で防げる(自宅保管はリスク大) | 原本を公証役場が保管=安全 |
| 向く人 | 内容が単純・費用を抑えたい人 | 財産が大きい・もめそう・確実にしたい人 |
深掘り:失敗しない選び方
自筆証書の落とし穴:民法968条は「全文・日付・氏名を自書し押印」を求める。パソコンで全文を打つと無効。日付が「2026年6月吉日」のように特定できないのも無効。財産目録だけはPCや通帳コピーで作れるが、各ページに署名押印が要る。こうした不備での無効事故が多いのが自筆の弱点だ。
法務局の保管制度が“自筆の弱点”を半分つぶす:法務局(遺言書保管所)に預けると、紛失・改ざん・隠匿を防げ、相続開始後の検認も不要になる。手数料は保管申請1件3,900円と手頃。ただし、制度は形式面の最低限しかチェックせず、内容が有効かまでは保証しない点に注意。
公正証書の強み:公正証書遺言は公証人が関与して作成し、原本を公証役場が保管する。無効になりにくく検認も不要で、もっとも確実。費用は遺(贈)与する財産額に応じて決まり、相続人ごとに計算したうえで遺言加算が乗る。財産が大きい・相続人が多い・もめる可能性があるなら、この確実性は安い保険になりうる。
どちらでも超重要:遺留分。配偶者や子などには法律上の最低取り分=遺留分があり、遺言でも完全には奪えない。「全部を一人に」と書いても、他の相続人から遺留分侵害額を請求されうる。誰が法定相続人かを押さえ、遺留分に配慮した配分にしておくのが、結局いちばんもめない。
用語
- 検認
- 家庭裁判所が遺言書の存在・形状を確認する手続き。公正証書と、法務局に保管した自筆証書では不要。
- 遺留分
- 一定の相続人に保障される最低限の取り分。遺言でも奪えない。